欧州ELV規則(EU)2026/1738について(速報)

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さて、欧州ELV規則(EU)2026/173(EU)2026/1738が2026年7月24日にEU官報へ掲載されました。旧ELV指令2000/53/ECだけでなく、車両の再利用性・リサイクル性・回収可能性に関する型式認定指令2005/64/ECも置き換えます。

指令ではなく「規則」なので、原則として加盟国の国内法化を待たず直接適用されます。それぞれの適用時期はこの記事の最後にまとめています。

1.制度概要

従来、別々の指令で規定されていた車両設計・型式認定と使用済み車両の管理を統合し、さらに再生材含有率、取り外し設計、中古車輸出等を加えたライフサイクル規制に変わります。

2.変わったところと変わらないところ

論点旧制度新規則
法令体系ELV指令2000/53/ECと型式認定指令2005/64/ECが別々二つを統合し、直接適用される規則へ
規制の中心廃車回収・処理、四重金属制限、85%/95%目標旧制度を統合し、再生材含有率、取り外し設計、修理・再利用、中古車輸出等まで拡張
対象車両原則M1乗用車・N1小型商用車M1・N1を中心に、Lカテゴリー、バス・トラック・トレーラーへ一部拡大
再生材含有率数値義務なし再生プラスチック含有率を義務化。鉄鋼・アルミは今後設定。その他は今後設定検討
設計要件85%/95%の再利用・リサイクル・回収可能性85%/95%要件を維持しつつ、電池、電動駆動モーター等の取り外し・交換可能性を具体的に要求
化学物質Pb、Hg、Cd、Cr(VI)の禁止と適用除外四重金属規制は継続。加えてリサイクルを阻害する「懸念物質」の把握・情報・将来規制の仕組みをついか
情報提供解体情報、樹脂部品表示等循環性戦略、再生材申告、取り外し情報、デジタル車両パスポート
生産者責任回収費用の一部負担を中心とする基本的EPR登録、回収・処理保証、費用負担、拠出金の環境調整等を詳細化
中古車輸出ELVか中古車かの判定が実務上曖昧法的判定基準、VIN確認、走行適格性、税関電子照合を導入
監視・執行加盟国間でばらつき年間最低検査数、車両登録情報等の電子交換、罰則等を明文化


2-1. 85%/95%目標は、基本的には変わらない

新車型式の設計・型式認定要件について85%/95%という数値水準は従来から変わりません。旧制度では、使用済み車両の処理目標はELV指令2000/53/EC、新車型式の設計・型式認定要件は指令2005/64/ECに定められていました。新規則は、これらを一つの規則に統合しています。

  • 質量の85%以上を再利用可能またはリサイクル可能
  • 質量の95%以上を再利用可能または回収可能

2-2. 再生プラスチック含有率が新たに義務化

今回の最も分かりやすい新規制です。
新たに型式認定される車両型式に含まれるプラスチックについて、

  • 2032年9月1日以降の新型式:15質量%以上
  • 2036年9月1日以降の新型式:25質量%以上

を、消費後プラスチック廃棄物由来の再生材とする必要があります。
さらに、この目標値の20%以上を、使用済み車両または使用中の車両から取り外された部品由来のプラスチックで達成します。
ここは読み違えやすく、車両中プラスチック全体の20%ではありません。

  • 15%目標時:15% × 20% = 少なくとも3ポイント
  • 25%目標時:25% × 20% = 少なくとも5ポイント


タイヤのエラストマーや、座席クッション用ポリウレタンフォーム以外の熱硬化性樹脂などは、算定から除外されます。
また、マシンリサイクル以外の方法で得られた再生プラスチックは、マスバランス方式を含む算定規則が整備されます。

(参考)金属リサイクルについて

鉄鋼及びアルミニウムについては、新規則本文では再生材含有率の数値はまだ定められていません。欧州委員会は2027年9月30日までに実現可能性を評価し、2028年9月30日までに委任法令で最低含有率及び算定・検証方法を定めます。適用開始日は当該委任法令に定められ、遅くとも2033年8月14日までに適用が開始されます。
マグネシウム、ネオジム、ジスプロシウム、コバルト、ニッケル等についても、将来の再生材目標の設定が検討されます。

2-3. 重金属の規制は従来通り(原則禁止)

鉛、水銀、カドミウム、六価クロムについては、基本的な禁止と適用除外の制度が引き継がれます。
旧指令でも、原則禁止とし、附属書IIで用途別適用除外を設けていました。新規則では、2032年9月1日以降に型式認定される車両型式について、原則禁止とし、附属書IVの条件・最大濃度・適用除外を適用します。

2-4. リサイクル阻害物質への新たな取り組み=今後の追加可能性

新規則では、主として化学的安全性以外の理由により、材料の再利用・リサイクルを阻害する懸念物質について、欧州委員会が将来、委任法令により情報提供要求又は制限を設定できる仕組みが設けられました。

現時点で、新たな対象物質や具体的な制限値が定められたわけではありません。欧州委員会はECHAの支援を受け、2028年2月14日までに車両中の懸念物質に関する報告書を作成し、その結果を踏まえて追加措置を検討します。

2-5. 電池は電池規則へ移管

車載電池については、鉛、カドミウム、六価クロム等の規制・適用除外が電池規則(EU)2023/1542へ移されています。新規則附属書XIIで電池規則附属書Iが改正されました。したがって今後は、

  • 車体・一般部品:新ELV規則附属書IV
  • 車載電池:電池規則附属書I

という確認が必要になります。

2-6. 「取り外せる設計」が具体的な義務になる

2032年9月1日以降に型式認定される新型式について、特定部品を交換・再利用・リサイクル等のために取り外せるよう設計する義務が導入されます。特に、「EV用電池」「バッテリーパック」「電動駆動モーター」は、使用段階・廃棄段階の双方で、容易かつ非破壊的に取り外し・交換できる設計が要求されます。
これは従来の「リサイクル可能率を計算する」制度から、実際に分解・交換できることを設計要件にする制度への変化です。

2-7. 製造者の情報義務が大幅に増える

循環性戦略

製造者は2029年9月1日から、製造者単位の循環性戦略を作成し、5年ごとに更新します。戦略には、再利用性、リサイクル性、再生材目標等をどのように達成するかを記載し、欧州委員会が機密部分を除いて公表します。

解体・交換情報

同じく2029年9月1日から、新型車両について、廃棄物処理事業者や修理事業者等に対して、電池・モーター等の部品について、取り外しや交換等の情報の提供をします。

デジタル循環性車両パスポート(Digital Circularity Vehicle Passport

2032年9月1日から、本規則の対象で市場投入される各車両にDigital Circularity Vehicle Passportが導入されます。

掲載情報には、「取り外し・交換情報」「鉛、水銀、カドミウム、六価クロムを含む適用除外部品」「再生材含有率」「公式スペアパーツカタログ」等が含まれます。

2-8. 使用済み車両の処理が具体化

ここでは具体的な記載は省略しますが、処理施設に対する義務も相当具体的になりました。

2-9. 拡大生産者責任が詳細な制度になる

2029年9月1日から、製造者の拡大生産者責任が明確化されます。この中には、域外製造者等について授権代理人の指定も含まれ、車両の生産者・輸入者に法的責任に基づいたコスト面での負担を義務付けていくことになります。

なお生産者責任組織への拠出金については、いわゆるエコモジュレーションが導入されます。設計の悪い車ほど廃車処理費用が高くなるという感じです。

2-10. 使用済み車両の判定と中古車輸出を厳格化

2031年9月1日から、EU域外へ輸出できる中古車について、「使用済み車両ではないこと」「相克適格性」「VIN及び最終登録国情報の提示」が加わりました。



3. 施行スケジュール

日付主な内容
2026年7月24日EU官報掲載
2026年8月13日規則発効。電池規則改正等の一部適用
2026年9月14日委任法令・実施法令を整備するための一部条項適用
2028年9月1日規則の一般適用開始、旧ELV指令原則廃止
2029年9月1日EPR、循環性戦略、解体情報、部品取外し・取引規制等
2030年1月1日85%/95%の新規則上の処理目標
2031年9月1日大型車・Lカテゴリーへの一部拡大、中古車輸出規制
2032年1月1日廃車プラスチック30%リサイクル目標
2032年9月1日新型式の設計・物質規制、再生プラ15%、車両パスポート
2036年9月1日再生プラスチック25%

旧ELV指令2000/53/ECは2028年9月1日に原則廃止されますが、重金属制限等の一部規定は移行措置として2032年8月31日まで残ります。型式認定指令2005/64/ECも2032年8月31日まで段階的に存続します。


4. 化学品・材料メーカーから見た実務上のポイント

完成車のみならず、自動車用途で素材や部品を輸出しているメーカーへの影響として考えられることを挙げました。

①材料組成情報の提出と検証が重くなります
従来からあったELVの非含有調査だけでなく、合成樹脂及びその成形品については樹脂種、再生材比率、その由来(車両由来かどうか)等も含めた情報まで、サプライチェーンで追跡する必要があります。

②再生プラスチックのトレーサビリティ
EU域外で製造された再生材を目標に算入する場合、2030年8月14日以降、EU相当の環境・労働安全・廃棄物管理条件と、第三者監査が必要になります。
これは、部材として合成樹脂製の成形品の素材選択に大きく影響する可能性があります。

今後の懸念物質規制について
現時点で新しい一律禁止物質が大量追加されたわけではありませんが、リサイクル阻害物質について、ECHA・欧州委員会による評価後に情報義務や制限が追加される仕組みができました。ということは、今後はELV規制で物質追加されることがあります。