国連GHS改訂第12版に向けた動き

第49回化学品の分類および表示に関する世界調和システム専門家小委員会報告(ST/SG/AC.10/C.4/98)より

https://unece.org/sites/default/files/2026-07/ST-SG-AC10-C4-98e.pdf

2025年に国連GHS改訂第11版が発行されました。現在、国連GHS専門家小委員会では、次の改訂第12版に向けた検討が進められています。2026年7月8日から10日にかけて、ジュネーブで第49回 国連GHS専門家小委員会が開催されました。今回の会合では、GHS改訂第11版に対する具体的な改訂案がいくつか採択されたほか、2026年12月の次回会合に向けて、生殖細胞変異原性、非動物試験法、実際の分類上の問題など、今後のGHSに大きく影響しそうな論点が議論されています。化学品管理子的には、国連GHSは改訂第6版でだいたい今の形になったと思っています。GHSが成熟するにつれ、単純に「新しい分類基準を作る」という段階から、既存の仕組みの中にある不整合を直す段階へ入っていることがわかります。

今回採択された主な改訂

今回の会合では、すでにGHS改訂第11版に対する改訂案として採択されたものがあります。

  • 物理化学的危険性の同時分類と優先順位
    • 爆発物、自己反応性物質、有機過酸化物、鈍性化爆発物について、複数の危険有害性クラスに該当し得る場合の分類の関係が整理されました。
  • 注意書きの整理
    • 引火性液体の危険有害性区分に割り当てられていた、P303+P361+P353「皮膚(又は髪)に付着した場合:直ちに汚染された衣類を全て脱ぐこと。皮膚を水[又はシャワー]で洗うこと。」の削除
    • 水と接触して可燃性ガスを発生する物質については、新たな注意書きP343の追加
  • 皮膚感作性の細区分
    • OECD TG 442B動物試験を用いた皮膚感作性の細区分基準を表3.4.3及び3.4.4に追加する。これは日本からの提案ですね。
  • 可燃性の蒸気-空気混合物等

可燃性蒸気-空気混合物又は可燃性ガス-空気混合物を形成する物質・混合物を、附属書11「分類に至らないその他の危険有害性に関するガイダンス」の対象に含める提案も採択されています。

次回会合(2026年12月以降)に向けて注目したいもの

今回の報告書でむしろ重要なのは、まだ採択されていないものの、2026年12月会合に向けてかなり議論が進んでいるテーマです。小委員会は、2026年12月会合に正式な改訂案を提出し、今期中の採択を目指すよう求めています。

  • 非動物試験法の利用
  • 生殖細胞変異原性
    • 区分1Bについては、現行の1Bを区分1A側へ移すことを含む変更含む、分類判定基準の変更等

つなぎの原則の横展開

GHSでは、混合物そのものについて試験データがない場合に、類似する混合物の情報などを用いて分類する「つなぎの原則」が定められています。近年、皮膚腐食性/刺激性、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性、呼吸器感作性/皮膚感作性について、つなぎの原則の適用を明確化する改訂が進められてきました。

現在は、この整理を踏まえて、急性毒性、変異原性、発がん性、生殖毒性、特定標的臓器毒性など、他の健康有害性の章にも関連する改訂を行うことが検討されています。ただし、危険有害性クラスごとに混合物の分類方法は異なります。そのため、既に改訂された第3.2~3.4章の考え方を、そのまま他の章へ適用することはできません。

新たな危険有害性クラスは増えるのか

今後のGHSを見る上で興味深いのが、現在のGHSにはない危険有害性をどこまで取り込むかという議論です。

OECDから、難分解性(Persistent)及び移動性(Mobile)を持つ物質について検討結果が報告されました。これは欧州で既に導入されているPMT/vPvMに関係する流れですが、国連GHSではまだ新しい危険有害性クラスを作るところまで進まず、むしろ今回の報告では、難分解性や移動性という性質そのものが、必ずしも有害性を構成するわけではないとの指摘がされました。

その他の新しい有害性

このほか、内分泌かく乱、陸域環境への有害性、神経毒性、免疫毒性についても検討が進められています。内分泌かく乱についてはEUと米国による比較分析が行われており、次回会合で報告される予定です。神経毒性についてはリソース上の制約から次期2年間の作業となる見込みです。

現在のGHSが抱えている課題

今回の報告書を読んでいると、GHSが成熟するにつれ、単純に「新しい分類基準を作る」という段階から、既存の仕組みの中にある不整合を直す段階へ入っていることがわかります。例えば、

  • TDGとGHSで特定の引火性液体の分類結果が一致しない
  • 混合物の急性毒性推定値(ATEmix)の計算に潜在的な不整合がある
  • 異なる物理的形態の成分を含む混合物の急性吸入毒性について明確な分類方法がない
  • 単純窒息性物質について、どこまで表示対象とするか
  • 「成形品(article)」をGHSでどう定義するか

といった問題が議論されています。

また、GHS本文で使用するshouldとmustについても議論されています。GHS自体は法的拘束力を持たないモデル文書であるため、基本的にはshouldを用います。一方、各国・地域が国内制度へ導入する際には、より強い表現を用いることができます。しかし、この違いが大きくなれば、世界的な調和を損なう可能性があるとの指摘も出ています。

今後注目したいこと

次回の第50回GHS専門家小委員会は2026年12月に予定されています。特に注目したいのは、

生殖細胞変異原性、非動物方法、慢性水生環境有害性のMファクター、実際の分類上の問題

あたりです。また、その少し先を見ると、PMT/vPvM、内分泌かく乱、陸域環境有害性など、欧州を中心に先行している新しい危険有害性概念を、国連GHSがどのように扱うのかも重要になりそうです。

GHS改訂というと、新しい分類区分や注意書きに目が行きがちですが、今回の報告書を見る限り、今後はむしろ、

「何を危険有害性と考えるのか」
「どの程度の証拠があれば分類する、あるいは分類しないと判断できるのか」
「同じ基準を実際の物質・混合物へ矛盾なく適用できるのか」

といったところが、重要な論点になってきそうです。